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About 遠藤 萌 &
「さかいめの先へ」
次回のBIOME Kanjiru (art)の個展は、遠藤 萌(Megumi Endo)氏による、木版画個展「さかいめの先へ」を予定しております。2024年10月5日(土)から20日(日)までとなります。皆様のお越しをお待ちしております。
遠藤氏と作品についてインタビューしましたので、次回個展と合わせて、おたのしみください。
作品名:左(スマホは上)「みどりの流転」、右(スマホは下)「ゆるやかな浸透」
2023年のJINEN GALLERYで開催した個展から今年の個展、そして今回の「さかいめの先へ」。一部の作品を拝見させていただき、ストーリー性を感じました。これまでも “山” を描かれてきたと思いますが、ここ数年のテーマがあれば教えてください。
私は、実際に登った山をスケッチや模写して描くというよりも、その山や景色を思い出しながら作品にしています。また、富士山など固有名詞のある山を描くのではなく、記憶の中の手の届かない場所を手繰り寄せながら表現しています。
昨年は妊娠・出産があったため山に登る機会がなかったので、以前よりも増して過去の記憶をたどりながら描くようになりました。過去を振り返ったり、遠くへ行ってしまったものを引き寄せたり、曖昧になった記憶を具現化する作業は、版画の制作工程と非常に似ていると感じています。そうしたことをうまく表現に落とし込めないかと考えながら制作しているのが、最近のテーマです。
現在、山登りはお休み中とのことですが、これまで山を描く際、実際に登った山を描くことが多かったのでしょうか? それとも山から見える景色を描くことが多かったのでしょうか?
山から見える景色を描くことが多いと思います。自分ではあまり意識はしていなかったのですが、山登りを経験されている方に絵について話を聞くと、「高いところから見える景色だね」と言われたことがあります。
「さかいめの先へ」というタイトルを付けられた理由を教えてください。
昔の記憶をたどりながら、登った山はこんな感じだったかなとか、今の自分と昔の自分を行き来しながら制作していると、境界みたいなものが曖昧になる感覚があります。版画は、一版、二版と重ねて制作していくのですが、その過程で、山の奥と手前の境目がぼんやりとしていくような、時間や距離などが曖昧になっていくときがあります。
その中で、絵を完成させようと思うと、漂っている曖昧な状態から一歩先を見出し、未来に視点が向かう瞬間があるのです。例えるなら、子どもの成長を見守りながら、将来を考えるような感覚に似ています。山の手前や奥、過去と今の境界を越え、さらにその先を見据える感覚が、「さかいめの先へ」というタイトルにふさわしいと感じました。
出産を経験して、描き方に変化を感じたことはありますか?
表面的にはあまり変わったとは感じていませんが、今年の展示では「色が少し鮮やかになったね」と言われることが増えました。自分では気づかなかったのですが、妊娠や出産だけでなく、制作方法の変化が影響しているのかもしれません。
なぜ “山” を描かれるのでしょうか?
大学時代、父親の趣味が登山だったこともあり、家族で山に登るようになりました。予想以上に楽しかったので、そこから自分でも山登りをするようになりました。その影響もあって、自然や山をテーマに描くことが増えました。
私の登山は、比較的安全な範囲で一人でも登れるもので、山小屋に一泊することもありますが、夏山が多く、冬山にはあまり行きません。山に限らず、自然の中に身を置くことを楽しんでいます。
作品名:右(スマホは下)「あかり」
遠藤さんのファンの中には、山登りをされる方が多いのでしょうか?
登山をされる方もいらっしゃるようですが、特に多いという印象はありません。ただ、作品について話を伺うと、「子供の頃に訪れた祖母の家の景色に似ている」とか「昔、こんな場所に行ったことがある」というお話をよく耳にします。記憶を呼び起こされるような感覚で、答え合わせをするようなやり取りが多いです。
以前の展示会でお会いした方が、安曇野に祖母の家があり、その景色をよく知っていると おっしゃっていました。ちょうどその頃、私も安曇野近くの燕岳に登ったばかりで、近しい景色を描いていたようです。山登りをする時期は、長野や山梨あたりに行くことが多かったです。
今回の個展で展示予定の作品について教えてください。
ひとつの作品を作り上げるとき、特定のメッセージを込めることはあまりないのですが、DMで使用している作品も、登った山だけれど、記憶の中で遠くなってしまった風景、きれいで心地よかった場所を形にしたものです。はっきりとは覚えていませんが、良い空気だったとか、初めて見たけれど、なんだか知っている気がする場所だったとか、そのような感覚を意識しながら制作しています。
“山”以外の作品は、今感じたものを描いています。身近なものを選び、楽な気持ちで描き、彫り、擦る作業をしています。山とは違う制作プロセスで作られたもので、動物や鳥なども描いています。
木版画を選ばれた理由と、その魅力について教えてください。
端的に言うと、自分に合っていたからです。版画は、絵を描くよりも、一度冷静になる瞬間があります。擦って、めくって、その都度確認するというプロセスが、私にとって心地よい表現手法だなと感じています。
版画は色ごとに版を分けて制作しますが、その重ねていく工程が、山の風景や稜線の表現と非常に合っていると感じています。山の手前、奥、稜線の重なりが版画の積層に通じており、その関係性を探るように、版画をつづけています。
私が使っている水性木版の絵具は、独特の淡さがあります。私の作品はしっとりというより、さらっとした仕上がりになることが多く、その淡い風合いが軽やかさを感じさせると思います。
作品名:左(スマホは上)「青い器」、右(スマホは下)「夜」
Profile:
遠藤 萌 Megumi Endo
千葉県出身
武蔵野美術大学油絵学科版画専攻卒業
主な展示歴
2018〜23年
遠藤 萌 個展 /JINEN GALLERY
2023年
鹿沼市立川上澄生美術館木版画大賞展 / 鹿沼市立川上澄生美術館
2019年
3/4㎡展(ROADCAST × SERENDIOUS)/ SHIBUYA TSUTAYA 7F
2017年
868788 展/The Artcomplex Center of Tokyo
2016年
版は異なもの味なもの 弐 /The Artcomplex Center of Tokyo
2016年
EXIST Vol.8/JINEN GALLERY
遠藤 萌
木版画 個展 「さかいめの先へ」
2024年10月5日(土)から20日(日)まで
12:00 - 17:30
最終日 11:00 - 15:00
休廊日 水曜・木曜