top of page
Knowing More About
個展「Neighborhood Park」& 木内 達朗

*本記事は、木内達朗氏からいただいた言葉と、BIOME のブログやNews Release などの公開資料をもとに編集しています。

​PDFバージョンについては、こちらをクリックしてください。

一枚の作品を前にしたとき、それが「絵画」なのか「イラストレーション」なのかを、その場で気にする人は少ないかもしれません。描かれた対象や画材、技法だけで線を引くことはできず、作品を前にして、そうすべきでもないと考えているからです。出版や広告で知られる作家が、展示空間で忘れがたい作品を生み出すこともある。また、美術の文脈で語られてきた作家が、別の媒体へと自然に手を伸ばすこともあります。

今日そのような話を耳にするのは、珍しくはなくなってきました。


BIOME が平面作品を見るとき、まず問うのは「どのような条件で生まれた作品か」ということ。誰かの依頼に応えるために作られたのか、それとも用途とは切り離されたところで、ただ作品として存在することを選んだのか。編集や広告の流通の中で機能するものなのか、展示空間の中で一つの作品として自立して見られるものなのか。どちらが優れているという話ではありません。成り立ちの違いに興味を抱き、その両方を尊重しています。


作家の肩書は参考にしますが、判断の根拠にはしません。イラストレーターだから、画家だからという理由で、扉を開け閉めするつもりはありません。自律して制作されたものか、展示の場で意味を持ち続けられるか。私たちが見ているのは、そこです。 境界が曖昧であることは、表現の豊かさだと思っています。ただ、選ぶ側の目まで曖昧にしてしまうと、作品への言葉も、展示そのものも、輪郭を失ってしまう。

だから私たちは、一枚の絵を前にするたびに、この問いに立ち返ります。 何を見ているのか、何を見続けたいのか、と。

さて、新BIOME での初展覧会は、2026 年5 月9 日(土)から5 月31 日(日)までの木内 達朗 個展「Neighborhood Park」です。


冒頭で触れた「絵画とイラストレーション」という問い。木内 達朗氏は、画家でありイラストレーターでもあります。

NeighborhoodPark_DM_TatsuroKiuchi.png

「イラストレーターになった理由を突き詰めると" 絵を描くのが好きだった" という、その一点にしぼられてきます。別の言い方をすれば、絵以外に取り柄がなかったということになります(笑)。でも、好きなだけで、すんなりと絵を描く仕事に就くようになったわけではありません。」

美大への進学も頭をかすめたそうですが、木内氏はICU(国際基督教大学)にて生物学を専攻されました。その後、同専攻で大学院へは進まず、アメリカへ。カリフォルニア州ロスアンゼルスにあるArtCenterCollege of Design へ入学します。

「アメリカの美大の思い出というと、毎日まいにち、とにかく宿題で精一杯だったことです。授業は一日六時間で、一クラス週五日あって、さらに六時間くらいかけないと出来ない宿題が毎日出る。学校から帰ったらいつも夜遅くまで宿題に明け暮れる生活でした。泣きながらやっていました。本当です。」

はじめての仕事は、ArtCenter College of Design を卒業間近で受けた絵本の仕事だったそうです。

SongoftheBuffaloBoy_SherryGarland.png

「本の内容は、ベトナムのお話で、作家はアメリカ人のシェリー・ガーランド(Sherry Garland)という人です。苦労しながら読んで、張り切って描いた記憶があります。その後、同じ作家が今度は絵本出すことになりました。
ベトナムからアメリカに移民してきた家族の話です。 僕はもう卒業していたので、「日本に持ち帰って制作してもいいかどうか」聞いたら、「どこでやっても構わない」と言われたので日本で仕上げました。この絵本は今でもまだ少しずつ売れ続けていて、世界的には二十万部以上売れています。」

木内氏が語るように、絵を描く仕事への道は一直線ではありませんでした。その後、絵本、本の表紙のデザインや挿絵、雑誌のイラストレーションなどを経て、国内外の媒体での仕事へと広がっていきます。The New Yorker、The New York Times、Royal Mail、United Airlines などをはじめ、書籍装画や広告など国内外で数多くのクライアントワークを手がけてきた作家であり、日本国内では、池井戸潤『半沢直樹』『下町ロケット』シリーズ、重松清『きよしこ』の装画などでも広く知られています。


デジタルイラストレーションを基盤としながら、油彩などのアナログ作品でも確かな画力を示してきました。出版や広告を通して作品は広く目にされながらも、作家自身の名が前面に出る機会は多くなく、静かにキャリアを重ねてきた存在でもあります。アナログとデジタルの両方をよく知るからこそ、その長所と短所を熟知していることがうかがえます。

「もし絵の具で描いていたら、橋の上の小さく見える人の顔までは多分描けないでしょう。

ところがPhotoshop では、すごく拡大すれば、表情まで描き込むことが可能です。それはデジタルのちょっとした短所と言うべきかもしれません。つまり、やりすぎてしまうわけです。」

木内氏の活動の特徴は、作品制作だけにとどまりません。歴史、画材、制作技術、流通、出版といった創作を取り巻くさまざまな領域について、自ら情報を整理し、複数のメディアを通して公開してきました。その内容はきわめて体系的で、数冊の書籍として成立しても不思議ではなく、教育の現場でもそのまま活用できるほどの精度を備えています。

Atallcosts_TatsuroKiuchi.png

「旧作でよければ、油彩の原画がありますね」

初めて手にすることができた木内氏の原画。2019 年の出来事です。印刷物や画面越しに触れてきた木内氏の作品の印象は「クリーンなデジタルの絵」でしたが、原画を前にして、はっきりとしたことがあります。
木内氏の原画は、仕事として成立しているだけではなく、絵画作品としても成立する。光の入り方。影の強さ。色の温度。原画の力は、想像を超えるものでした。

原画を手元に置いてから、「この人の絵は、仕事の中だけに収まらないはずだ」という思いが、離れなくなりました。だとしたら、どんな姿になるのだろう、と。


自社物件でのギャラリーを検討していたこともあり、木内 達朗氏の個展は新たなBIOME で開催すると決めていました。そして、2026 年5 月9 日(土)、木内 達朗 個展「Neighborhood Park」がいよいよ開催となります。木内氏の個々の作品だけではなく、長い創作の歩みとその背後にある知見の厚みを、実際の作品とともに体感していただける機会として、実現を願い続けてきた展覧会です。画家でもあり、イラストレーターでもある木内 達朗氏との展覧会は、新たなBIOME にとって、忘れがたい第一歩となります。

木内 達朗氏から個展に寄せて

「これまで35 年ほど、イラストレーターとして求められる条件の中でいかに良いものを作るかを考え、主にデジタルで絵を描き続けてきました。今回の個展は、そうした制約を一度すべて手放し、ひとりの描き手としてキャンバスとアクリル絵の具に向き合った、僕にとって新しい試みです。


タイトルの「Neighborhood Park」は、愛犬との散歩で毎日足を運ぶ身近な公園から着想を得ています。イラストの仕事では風景をそれらしく描く技術を長年磨いてきましたが、今回のキャンバスでは、現実のディテールを説明するのではなく、具象と抽象のバランスを探りました。


画面には、いくつかのモチーフが繰り返し登場します。自然の象徴である「木々」、人間の手による造形やスピードの象徴である「車やバイク」、そして何かと何かをつなぐ境界としての「橋」。
こうした確かな質量を持つモチーフの傍らで、背景は舞台の書き割りのように抽象化されています。
さらに空間を漂う白黒の「リボン」は、渦巻く感情や吹き抜ける風といった、本来目に見えない不確かなものを可視化したノイズです。マスキングによるソリッドなエッジや絵の具の手応えを通して、これらがひとつの画面で拮抗する面白さを追求しました。

「 公園」という言葉は、穏やかで平和な響きを持っています。しかし、ここに広がるのは単なるほのぼのとした風景画ではありません。抽象化された景色の中に、ふと遠くの赤い炎のような気配を置くことがあります。それは、私たちが享受している平和な日常のすぐ隣に確かに存在している戦火や、この時代が抱える不穏な空気の断片です。


僕はコンセプチュアルな知的ゲームとしてのアートを作りたいわけではありません。ただ、今この時代に生き、絵の具を塗る者として、少しの綻びもない、美しいだけの平穏を描くことはできませんでした。その意味において、ここに描かれた景色は、僕にとっての近所の公園であると同時に、作品の前に立つ皆さん一人ひとりにとっての「近所の公園」であってもよいと考えています。日常と非日常、静寂と不穏、そして可視と不可視が同居するこの公園の気配を、新しくオープンするBIOME の空間でご高覧いただければ幸いです。」 

(2026 年3 月 木内 達朗)

木内達朗_edited_edited.jpg

木内 達朗 Tatsuro Kiuchi


画家/イラストレーター 東京生まれ


国際基督教大学教養学部(生物学専攻)卒業後、渡米。
ArtCenter College of Design(Pasadena)Illustration 卒。


The New Yorker、The New York Times、United Airlines、Royal Mail など国際的媒体に作品を提供。
書籍装画、雑誌挿絵、広告、アニメーションなど多様な分野で活動しながら、デジタルとアナログの双方を横断する表現を展開している。

 

東京イラストレーターズ・ソサエティ会員/イラストレーション青山塾講師

Enjoy More Our “Knowing More About”

bottom of page