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「旅する版画 神戸にて」
& 仲 紘嗣 と 山下 かず子
2025年8月30日(土)から9月21日(日)まで開催される、北海道在住の仲 紘嗣氏と山下 かず子氏による版画 二人展「旅する版画 神戸にて」。
旅というひとつの共通のテーマのなかで、繰りひろげられる2つの違う世界をたのしむことができます。
開催前、お二人にお話しをお伺いしました。二人展と併せて、ぜひご覧ください。
(本ページにて掲載しております作品名については割愛させていただきます)

お二人について教えてください。
(仲さん)
40代半ばに体調を崩したことをきっかけに、仕事を軽勤務に切り替え、木版画教室に通うようになりました。そのときに「絵が描けないとだめなんだ」ということに気づき、水彩画教室にも通いはじめ、あわせてもう20年ほど続けています。私は見たものをそのまま描くことに終始しており、旅先でのスケッチが中心です。木版画はだんだん楽しみになってきていて、続けてきてよかったなと思っています。
(山下さん)
私は熊本県の生まれですが、幼少のころに家族とともに北海道へ渡り、それ以来、長く北海道で暮らしています。でもどこかで「自分は南国生まれだ」という気持ちがずっとあり、その思いが旅心を動かしているのではないかと思っています。
版画は30代のころからはじめ、仲さんと同じように木版画教室で習い、続けています。趣味のような形でずっとやってきましたので、作品を発表したり展示会をさせていただいたりするようになったのは60歳を過ぎてからで、つい最近の出来事です。


お二人の出会いのきっかけはなんだったのでしょうか?
(山下さん)
同じ木版画教室で出会いました。もう30年くらい前になります。版画家の玉村拓也さんという方がいらして、その方に習っていたのがきっかけです。
当時、仲さんはお医者さまをされていて、とてもお忙しく、週に1回ほど夜に同じ版画教室へ通って来られていました。
お二人で展示会をやられたのは、2023年の北海道での「旅する版画 二人展」がはじめてだったのでしょうか?
(仲さん・山下さん)
二人だけで、というのはそうですね。その前には、木版画教室で年1回のグループ展があり、小さな作品を1〜2点出展することはありました。でも作品展としては、2023年の「旅する版画 二人展」がはじめてで す。


北海道から離れ、神戸での展示会実施となるわけですが、ご決断の理由について教えてください。
(山下さん)
神戸のBIOMEさんからお声がけいただいたのがきっかけです。最初は2022年7月に開催されたグループ展(「木と金工の展覧会 THE CHARM 北山栄太・笹倉岳・平戸香菜・山下かず子の4人による展覧会」)に参加させていただきました。それがはじまりで、そこから時々ご連絡をいただくようになりました。
昨年、神戸を訪ねた際にBIOMEさんに立ち寄り、北海道で開催した「旅する版画展」のDMをお見せしたところ、「同じ展示会を神戸でもやりませんか?」とお声がけいただいたのです。
今回の件についてもそうですが、2022年にお声をいただいたときも本当に驚きました。北海道で版画は続けてきましたが、私たちは無名ですし、「こんな作家でいいですか?」とお聞きしたくらいです。それでも「旅する版画」のテーマを気に入ってくださったようで、「同じ内容でぜひ」と言っていただき、今回の実施につながりました。
ちなみに、そのDMをデザインしてくださったのは、香港出身のWong Mei Yinさん(Instagram)という若い女性デザイナーです。DMのデザインも気に入っていただけたようで、今回も「同じデザインで」と言われました。タイトルは「旅する版画 神戸にて」とし、DMに使用している仲さんの作品はプラハのカレル橋、私のほうは北海道の能取灯台を風に吹かれながら歩く人を描いたものです。栗山さんに気に入っていただいたことを考えると、DMって本当に大事なんだなと思いました。
タイトルの由来 について教えてください。「旅する版画」ですから、旅行がお好きなのでしょうか?
(仲さん)
私の場合は、旅行代理店が企画しているパッケージ旅行に参加することが多いので、自由時間はあまりありません。その中で訪れたプラハのカレル橋が本当にすてきで、2年越しで作品に仕上げました。
(山下さん)
私は旅が好きで、「旅する版画」というタイトルはずいぶん前から温めてきたものです。仲さんと展示会をご一緒するにあたり、このタイトルを使おうと思いました。仲さんも旅好きなので、ぴったりだと思ったのです。
ただ、私はあまり観光地には行かないんですよ。友人を訪ねて遊びに行ったり、その土地に滞在して散歩したりと、のんびり過ごすのが好きです。だから観光名所の風景を描くことは少なく、その場所で味わった気持ちや出来事を絵にすることが多いです。
たとえば、不安を感じたことや、旅先で出会った人の印象、通りすがりの人たちの姿が心に残ったことなど。楽しかった思い出だけでなく、怖い思いをしたり、どうしていいかわからなくなったりした経験も含めて、そうした感情を絵にしたいと思うのです。お邪魔したお家でほっとした気持ちなども含めて、旅の印象そのものを描いているのだと思います。
そうすると、仲 さんと山下さんの旅の絵には違いがありますね?
(山下さん)
はい、そうですね。2023年の展覧会のときも、少し違いが出ていました。絵の世界観というのでしょうか。仲さんの場合は、現地でスケッチをして、時間がなくなるとホテルで色をつけたりして描いた作品なので、そのときのことがすごく克明に表現されています。情景がはっきりと描かれていて、観る側にも伝わりやすいですし、絵を描いている仲さんの姿まで浮かんでくるようです。
私の場合は、現地でスケッチをほとんどしません。戻ってきてから、「あの場面がどうしても頭から離れない」というものを絵にしています。


お二人にとって旅行はどういう存在なのでしょうか?これまでにいろんな場所に行かれたのでしょうか?
(仲さん)
旅行は、人生の大きな楽しみの一つですね。それほど多く回ってはいないと思いますが、20カ所くらいでしょうか。旅行代理店のパッケージでスケジュールが決まっていますので、その短い時間の中でなんとかスケッチして、作品に仕上げてきたという感じです。
(山下さん)
仲さんは文章も書かれる方なので、旅で見てきたものや日々の生活について書かれることがあります。
(仲さん)
今回の展示会でも、少しですが作品に添えられたらと思っています。山下さんとは趣味を通じてお付き合いするようになりましたが、最初に書いた母親についての本*の中で、「扉ごとにカットが欲しい」と思ったとき、山下さんにお願いしました。そのときにいただいた作品がとても心温まるもので、内容にもぴったりでした。そうした経緯もあり、一緒に活動するようになった部分もあります。
(*著書のご紹介:仲 紘嗣著「せん妄はこころの叫び 百六歳・母の晩年」・「自分らしく生き、そして逝く~高齢者医療のあり方を学ぶ」)
(山下さん)
旅は、私にとっては人生そのものですね。実は昔は旅が嫌いでした。緊張しますし、海外では言葉も通じない。不安を抱えながら一人で旅をしていく中で、「旅は人生そのものだな」と思うようになったんです。だから旅から帰ってくると、ひとつ大きな仕事を成し遂げたような気持ちになります。実際はただ遊びに行って帰ってくるだけなのですが。
電車や飛行機などの移動の中でも、すごく多くのものを感じます。距離や時間をかけて旅をすること自体が、人生に重なっているように思えるんです。そして何より旅先での出会い。人との出会いやアクシデント、知らないものに触れる体験…。そうしたことで自分の価値観が変わっていく。それが衝撃的で刺激的で、一番の勉強になるし、「生きているな」と感じる瞬間ですね。
作画・制作され る上で気をつけられていることはありますか?
(仲さん)
先ほども少しお話しましたが、旅先で気に入った風景があると、昔はカメラで撮って後から修正していました。でも写真では細かいところまでわからないので、その場でなるべく仕上げるようにしています。やってみると案外おもしろく、今まで続けてきてよかったなと思っています。
(山下さん)
私は仲さんとは反対で、写真は多少撮りますが、基本的には頭の中に残った印象やそのときの感覚をもとに描きます。だから実際の景色とは全然違ったり、自分だけの思いで描いたりすることも多いです。旅以外でも日常のことや生活を題材にすることが多いのですが、身近なものでも頭の中で作りあげて絵にすることが多いですね。
旅が共通点でも 、2つの違う世界が観れる展示会というのは、素晴らしいですね。
(山下さん)
そこをわかっていただけるのは、私たちにとって本当にうれしいことです。まったく違う世界観というか、同じ旅でもこんなふうに捉え方が違うんだ、というところを見てもらえるのが、とてもありがたいですね。
(仲さん)
旅というひとつのテーマで展示会をやれること、そしてそれを山下さんと一緒にこういうかたちにできたことを感謝しています。
(山下さん)
私も同じ気持ちです。


仲 紘嗣 と 山下 かず子
版画 二人展「旅する版画 神戸にて」
2025年8月30日(土)から9月21日(日)まで
14:00 - 18:30
最終日は14:00 - 17:00です
休廊日は水曜・木曜日となります。

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