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菅野 静香  & 「spot」

2024年10月26日(土)から菅野 静香氏による、油彩 個展「spot」の開催を予定しています。BIOME Kanjiru(art)の個展として、菅野氏をお迎えするのは3年ぶりです。近況や「spot」で展示予定の作品についてなど、お話いただきましたので、個展とあわせて、ぜひおたのしみください。

作品名:boundary_F6(右、スマホは下に表示されています)

boundary_F6.jpg

BIOMEでの個展は約3年ぶりかと思います。2019年の「hiraeth」(ヒライス)、2021年の「access」(アクセス)、そして今回予定されている「spot」(スポット)。InstagramなどでWIP(Work In Progress)の作品も含めて公開されていますが、「access」から「spot」までの期間、どのような活動をされていましたか?

実験的な制作を繰り返していました。これまでの表現方法から離れて模索していた「hiraeth」から「access」まででしたが、その後も手探りの状態が続いていました。「access」以降も展覧会の機会をいただいていましたが、発表のたびに雰囲気が変わることに心苦しさや焦りを感じていました。しかし、他人の評価に縛られすぎていることに気づき、「まずは自分自身が好きだと思える絵を描けるように」と意識するようになったら、自分が何をどう描きたいのかが少しずつ明確になってきた気がします。「私がこの絵を好きになるには」という最も大切なことを、足掻いているうちに忘れてしまっていたようです。それを思い出したタイミングでの今回の個展となります。ただし、それはここ3ヶ月くらいの話なので、出品作の中には暗中模索時のものも含まれています。

spot_f20.jpg

個展のタイトルである「spot」について、「感情の折り返し地点(spot)をつくる行為である」と感じていると伺いました。「折り返す」という言葉が気になったのですが、これは「今→戻れない場所・時間→今」なのか、それとも「今→戻れない場所・時間→新たな今」という感覚でしょうか? 

「今→戻れない場所→新しい今」です。制作を「戻れない時間や場所にアクセスするための手段」として、消失した場所や過去の記憶をモチーフに描いてきました。もう存在しないものや手に入らないものを絵の中で実現していたわけです。しかし最近は、アクセスというより「感情の折り返し地点を作っている」と感じています。「もうそこには戻れないんだ」という諦めをつけるための作業になりつつあるのではないかと。
過去に戻るための手段としての制作が、「過去に戻りたい」という感覚から戻ってくるための手段に変わってきています。「折り返し地点」という言葉が適切かどうかはわかりませんが、その言葉が頭に浮かんで以来、ずっと離れないので使っています。

作品名:spot_F20(左、スマホは下に表示されています)

BIOMEが現在の場所へ移転する際、「tennis court」という作品をキービジュアルとして使用させていただきました。「tennis court」にも登場していた緑のネットフェンスが、今回のDMで使用されている「boundary」シリーズにも登場しています。菅野さんにとって、緑のネットフェンスはどのような存在ですか?

キービジュアルに使っていただいた作品は数年前に制作したもので、タイトル通り「テニスコート」を描いたものです。人の気配がありそうなのに誰もいないテニスコートに心惹かれて描いたもので、当時は深い意味や他意はありませんでした。最近のフェンスについては「境界線」の意味を持たせています。先ほどお話しした「もうそこには戻れないんだ」という言葉にもあるように、「隔てられている」「越えられない一線」というイメージは、今の私にとって重要なモチーフです。この作品のフェンスもそのような意味を持っています。取材中にフェンスの向こうに自分の影が落ちることがあり、それも気になるモチーフのひとつです。今回の展覧会でも、そういった作品が含まれています。

作品名:boundary_F0(右、スマホは下に表示されています)

boundary_F0 .jpg
boundary_F10.jpg

今回の「boundary」シリーズに、海をモチーフにした作品が含まれていますが、緑のネットフェンスが描かれている作品と違った印象を受けました。「boundary」シリーズについて教えてください。

「boundary=境界線」。海に関しては一見「水平線のことかな」と思われるかもしれませんが、私は打ち寄せる白波を指しています。白波は岸と海の境界線のように見えます。それがまるで意思を持つかのように寄せては引いてを繰り返す様子は、生と死をほのめかしているように感じます。私がモチーフにしている、もう存在しない場所や時間には、もう会えない人もいます。その人たちを例えるならば海、岸が私自身かもしれません。岸がこちらの世界で、海があちらの世界。波がその境界。最近登場したモチーフなので、まだ掘り下げている最中です。

作品名:boundary_F10(左、スマホは下に表示されています)

「boundary」以外でも「garden」や「luz」など、シリーズで描かれている作品があります。それらについて、始まりのきっかけも含めて教えてください。

人物をモチーフに描いていた時期に、これまでの制作に疑問を持ったことがきっかけで、植物を描き始めました。そこで生まれたのが「garden」です。かつて女性の後ろ姿ばかり描いていた時期がありましたが、表現や方向性に迷っていたタイミングで、髪の毛を描いているときにわずかな手応えを感じました。「この筆さばきを他のモチーフでも実現できないだろうか」と考え、まず応用しやすかったのが植物でした。ほどなくして疫病禍となり、自由に外出ができなくなったこともあり、近所の植物を描き重ねるうちにこのシリーズが生まれました。
「luz」はスペイン語で「光」を意味します。数年前に訪れたスペイン旅行がモチーフになっています。シリーズ化するつもりはなく、なぜこれを描きたいのか理由を知りたくて、手探りで何枚も描いているうちに自然と枚数が増えました。いまだになぜ描いたのかわかりません。
心揺さぶられる景色を見たとき、「この風景を描きたい」と思いますが、感情を掘り下げていくと「風景ではなく、その風景に抱いた感情を描きたい」と気づきます。スペインで聖堂を見たとき、幼少期に見たメリーゴーランドの記憶が重なり、心を震わせたことが印象に残っています。その高揚感を描きたかったのかもしれません。

作品名:luz_F15(右、スマホは下に表示されています)

luz_F15.jpg

BIOMEでの最初の個展「hiraeth」では、人物画が多かったかと思います。Instagramでの作品を見る限り、人物画が減っているように感じます。共有可能な範囲で、その理由を教えてください。

長年続けてきた人物モチーフから離れた理由は、作品が自分の意図とは異なる思いがけないカテゴリーに属している場面に直面したことがきっかけです。「hiraeth」は人物モチーフから離れたいと思いつつ、新たな表現方法で人物を扱おうとしていた葛藤の時期でした。いろいろな角度からアプローチしましたが、どうしても今やりたいことに人物を落とし込むことができず、無理に入れ込んでいると自覚してからは、自然に人物像が減っていきました。当時は「ヒロイン」に憧れていましたが、気がつくと憧れの対象が「戻れない場所」に変わっていきました。
手に入らないものを描くというテーマは変わっていません。

最後に、菅野さんにとって油彩画(油絵)とは何ですか?

一生解決しなさそうなもの、です。

プロフィール:

菅野 静香(Shizuka Kanno) 

 

東京都生まれ
女子美術大学大学院美術研究科修士課程美術専攻洋画研究領域修了

 

2011年 第30回 損保ジャパン美術財団選抜奨励展 秀作賞
2009年 シェル美術賞2009 本江邦夫審査員奨励賞
その他入選

 

韮崎大村美術館 所蔵

 

instagram  http://www.instagram.com/kanno_shizuka

菅野 静香 

油彩 個展 「spot」

2024年10月26日(土)から11月10日(日)まで

12:00 − 17:30

最終日 11:00 − 15:00

​休廊日 水曜・木曜

 

​作品名:line_F10(右、スマホは下に表示されています)

line_F10.jpg

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