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陶 個展
『空のかたち 雲のパヴェ』 & 寺井 陽子
寺井 陽子氏による陶個展『空のかたち 雲のパヴェ』が、2025年10月4日(土)から10月26日(日)まで開催されます。個展に先立ち、お話を伺いました。
「例えば空を見る楽しみを感じてもらえたら」と語る寺井氏。作品とともに、個展の見どころをぜひお楽しみください。
※本ページに掲載している作品名については割愛しております。

2025年10月4日から開催の『空のかたち 雲のパヴェ』。タイトルの由来は「旅先で触れた pavé<石畳>はその国の人たちのように表情豊かで柔らかでした 空を行く間に 遠くに見つけた青空と 敷きつめられた雲を形にして みることにしました」とDMにありましたが、どちらへ旅をされ、影響を受けられたのか、聞かせてください。
旅というよりは、仕事の合間に行ける状況だったので、夫の仕事に同行し、フランスのパリに3週間ほど滞在しました。
行き先を自分で決めたわけではなく、「これが見たい」と思って行ったわけでもなく、ただ街に漂ってみようかな、という気持ちで滞在しました。
何かを持ち帰ってこなきゃというよりも、パリにいる間は仕事のことをあまり考えずに過ごそうと思っていました。
日常では、何を見ても「土に置き換えたらどうなるか」などと考えてしまうのですが、そういうことを考えず、ただ感じ、流れるように過ごしました。
今回のタイトルとテーマが決まったのは、帰国してからです。
6月にフランスから戻り、個展を控えて7月にBIOMEさんへ伺い、ギャラリーを拝見しました。私にとって個展前に会場を確認することは大事な作業で、そこから受けるイメージもあります。好きな場所ではありましたが、どうみせるか決めかねていたとき、神戸から仙台へ帰る空の上で、南から台風が迫っていて雲の様相が激しく変わりました。雲の中に自分が入り込んだり、上下に挟まれたり、足元に見える雲が石畳のように見えたりして。その「雲の石畳」が、パリで歩いて感じた石畳のやわらかさと重なったのです。
雲に挟まれたとき、その先に真っ青な空が細く見えました。その鮮やかさがとても印象的で、かつて銅を使った釉薬で出していた青い色とよく似ていました。そこで「もう一度、あの青を取り出して使ってみよう」と。そこから具体的に形にするまでには時間がかかりましたが、そのときに初めてテーマが出来上がったと感じました。
そのときの感覚を、DMの文章にまとめたのです。
石畳とあったので、ヨーロッパかなとは思いました。
滞在中にはロンドンにも行きました。雨に濡れた石畳はさらに深い色と艶でさらに印象深い表情でした。

個展の実施をご決断された理由は?
個展のお話をいただいたのは1年以上前でしたが、栗山さんと実際にお会いできたのは、今年7月に伺ったときが初めてでした。
BIOMEさん自体は存じ上げていなかったのですが、BIOMEさんがある界隈は以前から知っていて、静かで好きな場所でした。そのこともあって惹かれ、「個展をしてみようかな」と思いました。
焼き物や工芸を中心に扱うギャラリーではなく、絵画や版画などファインアートも扱うギャラリーから声をかけていただけたことは、とても嬉しいことでした。
今回の個展に関して、BIOMEさんから特別な要望はありませんでした。お会いしたときに、個展の構成についてご相談しようと思っていたのですが、お酒も入って機嫌よくお話するうちに時間がなくなり、結果的にとても自由にやらせていただいています。
過去の展示会に関する情報のなかで、寺井さんの作品は“手 びねり”でひとつひとつ作られているとありました。寺井さんの制作について、また心がけていらっしゃることについて教えてください。
手びねりというのは、紐を積み上げて形を作るやり方です。私はまず作りたいもの、日々感じていることや影響を受けたことなどを、一度絵に描いてから制作を始めます。その平面に描いた線が立体になったらどう見えるのか?という好奇心が動いたときに、それを立体にする工程を踏むのです。
描いたものを仕上げようとすると、電動ろくろではできない部分が出てきます。手びねりであれば、下から形に沿って積み上げていくことができるため、その技法を選んでいます。
また、数をたくさん作るというよりは、一点一点、できれば毎回違う形を作りたいと思っています。自分で描いた平面から立ち上げて立体にすると、360度分のラインが生まれます。そのラインを積み重ねることで作っていくのです。ガラスや電動ろくろのように、一気に早く積み上げて形を作るのではなく、順を追って迷いながら土を積み重ねていく作業が好きで、楽しい。だからこそ手びねりを選んでいます。
立体になって現れたとき、制作過程でボコボコと手の跡がつきますが、それは削り落として、できるだけシンプルなラインに仕上げます。「人が作った」というよりも、「自然に生まれてきたもの」として感じてもらいたいからです。

寺井さんの作品は、かたちだけでなく、色合いも特徴的だと思いました。こちらの想像になってしまいますが、光の加減で、表情が変わるのではないかと。色合いにつきましても心がけていらっしゃることがあれば、教えてください。
例えば釉薬をかけなくても、形だけでも見ていられるものにしよう、というのは大前提であります。どんな釉薬がかかっていようが、美しいものになればいいなと。色合いについては、立体になった時の自然の陰影がヒントになり、釉薬と色化粧で手触りのよい衣装を纏ってもらう感覚です。
それプラス、使っている釉薬がチタン結晶釉といって、冷めるときに結晶ができて白濁した感じが生まれます。これは大学時代から使っていた釉薬で、手触りが好きなんです。決して器に向いているような釉薬ではないのですが、自分が作るものは例え器でなくても誰かに触れてもらいたい、形として触れてもらいたいので、この釉薬は必要ですし、人肌に近いなとも思っています。
チタン結晶釉は使い続けていくと、調合も沈殿で揺らいでしまって、全然色が出なくなるなど、いろいろなことがあります。でも結局、この手触りから離れられずにいます。
土も窯の中で1200度近くなるとやわらかくなります。釉薬ももちろん溶けますし、溶けて定着するだけでなく流れ落ちます。生地にのっていた色化粧を、流しながらその跡を残します。
私が予想しているそれ以上に窯の温度が影響して、想像しきれない失敗もありますし、より良くなる時もあります。
本当に気ままな釉薬で、そこを楽しんでいるというのもあります。私の手から離れて熱の力によってできる表情は、自然にできるものに近いんじゃないかなと思い、使っています。色合い、そして手触りが好きで、使いつづけています。
そうすると、個展では触れていただくのは大切ですね。
壁にかける作品については危ないので難しいかもしれませんが、それ以外のものはぜひ触ってほしいと思っています。
BIOMEさんの窓から入る光で触れて、見てもらえるのが楽しみです。
ご出身の兵庫県から仙台に工房を移設されたとプロフィールにございます。移設理由などについて、教えてください。
結婚を機に、仙台に工房を移設しました。
緑いっぱいで川が流れていて、「ここに住むよ」と見せてもらったときに、ああ、いいかもなと思ってきました。
気候的なことでいうと、ここ、すごくいいんですよね。冬は寒いですが、雪に包まれるとそれほど寒さは感じない。私は通勤がなく、家にいることが多いからかもしれませんが。薪ストーブなので、それなりに暖をとるのに苦労はしますが、それ以上に雪の景色とか、いい刺激があるのが何よりですかね。
今夏も後半になるとクーラーがいらなくなってきて、それぐらい朝晩は涼しく、とても過ごしやすいです。
個展は10月ですが、暑さが長引きそうだな、神戸はまだ暑いかもなあと思っています。
今回の展示会のみどころについて、教えてください。
空は、見上げたときに目にするのが雲だったり太陽だったり、または全体かもしれませんが、私が見つけた空の形は、何かと何かの間に青空が見えて形づくられているものです。
さきほどお話ししたスケッチブックに線を描くのは、形を模索するときの工夫でもあります。描いた形の外側にも形が現われ、思いがけない発見をします。そういう面から見えた青い空なんです。
青空って何かの背景になることが多く、脇役的ですが、それを主役にしてみたい。すき間の空が鳥に見えたり、いろんな形に見えたりするので、それをそのまま形にしたいと思っています。パリの並木を撮った写真には、木々の隙間から見えた空の形がありました。
そのときに見た形や、自分の印象から作った形もあるので、展示を見て空を見る楽しみを感じてもらえたらと思います。私自身、隙間の青空を眺める楽しみ方を覚えてから、空を見る回数が増えて、習慣が変わるというのは面白いなと思いました。これまでとは違う展示ですが、器を見て触り、購入していただくだけでなく、展示そのものを楽しんでもらえたらと思っています。BIOMEさんの空間を見て、そういったことも考えました。
広い空だけではなく、例えば建物と建物の間の空など、街中の大阪や神戸あたりの空も少し取り入れています。それらがどう焼き上がるかはまだわかりませんが、いろんな空をお見せできればと思っています。
インスタレーションというわけではありませんが、配置も大事にしています。個展はもうすぐなので時間切れではありますが、作りたい空が多すぎて、どれを選びどこに配置するか、個展前日は汗だくになって頑張ると思います。

創作・制作活動において、挑戦している、または今後挑戦したいことなどありますか?
パリへ行って、その街の人達と出会うなかで、もっと自分らしく、もっと人間らしく生きるってどういうことだろう、と考えました。すごく根本的なことを持って帰ってきてしまって、大きなテーマがドーンときてしまい。なので、何に挑戦していくのかについては、これから考えます(笑)。
今回の個展のことで頭がいっぱいというのが正直なところですが、一つ一つの作品づくりも挑戦なので、それは常にやりつつです。

寺井陽子 Yoko Terai
兵庫県に生まれ
京都市立芸術大学 陶磁器専攻卒業
1998年に兵庫県川西市に工房開設
2011年に宮城県仙台市に工房移設
<個展>
2000年
ギャラリー器館/京都(’02 ’04 ’06 ’09)
2001年
神戸阪急/兵庫
2002年
「律・立するうつわ」 ガレリアセラミカ/新宿・札幌
山木美術/大阪(’04 ’06 ’08)
2003年
うめだ阪急/大阪
2004年
空間舎白子/東京(’24)
「Elusive Beauty」(’05 ’07 ’09) Touching Stone Gallery/Santa Fe USA
2005年
サボア・ヴィーブル/東京(’07 ’09 ’12 ’14 ’16 ’18 ’21)
2006年
悠遊舎ぎゃらりぃ/愛知(’08 ’10)
2007年
ギャラリー Tip Toe/宝塚 葉山(’10 ’14 ’18)
ろば屋/新潟(’10)
2008年
「郷愁ハイク」 ナノリウム/山梨
2009年
いやしろ空/福岡
2011年
うつわクウ/芦屋(’13 ’15 ’17 ’20 ’23)
2012年
銀座三越/東京
2013年
MAMICA 陶のギャラリーとカフェ/東京(’17 ’22)
2016年
ぎゃらりぃ栗本/新潟
カンケイマルラボ/石巻
2017年
ギャラリー蒼/仙台
2022年
ギャラリー林檎舎/金沢(’24)
2025年
クラージュ・ド・ヴィーブル/東京
BIOME/神戸
<企画展>
2000年
日韓交流展 Hanjun Plaza Gallery/ソウル
2003年
「モエキ」 東端哉子(日本画)・寺井陽子 二人展/祇をん小西/京都
2008年
集治千晶(版画)・寺井陽子 二人展/名鉄百貨店/名古屋
2009年
「KNOT3展」 杉村徹(木工)・寺井陽子 二人展/gallery ten/千葉
2013年
ceramique 14 Paris/パリ
2015年
「春霖」 東端哉子・寺井陽子 二人展/ろば屋 にむらや菓子舗/新潟
「echo」 東端哉子・寺井陽子 二人展/ギャラリー島田 deux/神戸
2019年
工芸批評 松屋銀座 デザインギャラリー1953
花とうつわ展 うつわshizen/東京
2022年
「ONOMATOPE」 SIEBEN/東京
「特別展・受贈記念 平井昭夫コレクション×三浦徹コレクション やきものを愉しむ―二人のまなざし―」 兵庫陶芸美術館
他多数参加
<コミッションワーク>
エクシブ京都 八瀬離宮
ペニンシュラ東京
パレスホテル東京
リッツカールトン京都
フォーシーズンズ京都
コンラッド大阪
ロッテアライリゾート
ゲートホテル東京
他
寺井 陽子
陶 個展
『 空のかたち 雲のパヴェ 』
2025年10月4日(土)から
10月26日(日)まで
12:00 - 17:30
最終日のみ11:00 - 15:00
休廊は毎水曜・木曜日
アーティストの在廊は4日と5日を予定しています。
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