中島美静 手の気配
生活の中で、不安定なものがあると、人は落ち着かない気持ちになりがちです。
几帳面な人なら、額が少し傾いていたり、整然と並んだものの中にひとつ乱れがあったりすると、つい目についてしまうこともあるでしょう。
ところが、不安定なもの、動くものが、いつも不安を誘うわけではありません。
行儀悪く床に寝転がっていたら、窓から入った風でカーテンがふわりと持ち上がる。焚き火や暖炉の炎が揺れる、流れる小川が、石か何かで規則的ではない流れを見せる。そんな柔らかな動きには、不安より、むしろ安寧を覚えることがあります。
2022年の「たからもの for おくりもの」で、中島美静さんが出品されたのは酒器のセットでした。

そのときの注器は、比較的どっしりとした、落ち着いたかたちをしていました。
近年、中島さんの作品を並べていると、冒頭で触れたような、心地よい揺らぎを誘うものが多くなっています。底がほんの少し丸みを帯びていたり、高台を持たなかったり。
目の前の器が、わずかに揺れる。
正面を決めて眺めていたはずなのに、少し横へ移動すると、また違う面が現れます。
そして、中島さんの白。
光に当ててみると、白の中にも微妙な違いがあり、その合間から色の部分が見えてきます。
いっちんによる文様の重なりもあって、まるで薄い和紙を幾重にも貼りめぐらせたように見えることがあります。華やかさを前面に出すわけではないのに、何度見ても飽きない。
中島さんの定番となっている作品には、そんなところがあります。
今回は「ツキノハナ」「光彩文」と名づけられた作品も並んでいます。写真で見ると文様に目が向きますが、実物の前に立つと、器そのものの厚みや傾き、口の開き方、その上を文様がどう巡っているのかまで見えてきます。

今回の作品では、色を使っているものにも白い印象が残るように意識したそうです。また、白と白を重ねた作品では、光の関わりがとても大切になります。その表情をつくるために、模様の入れ方や、いっちんをどの程度盛るのかにも細かな工夫がなされています。
中島さんの作品は、正面から一度見ただけではわからないところがあります。
少し位置を変える。光の当たり方が変わる。
すると、白の中に別の白が見えたり、さっきまで気づかなかった凹凸が現れたりする。
底の丸みも同じです。ぴたりと止まっているものではなく、ほんの少し揺れる。けれど、その揺れは落ち着かなさにはつながらない。
冒頭に書いた、風に持ち上がるカーテンや、炎、水の流れと少し似ています。
整っていることだけが、心地よさではない。わずかに動くこと、光によって見え方が変わること、そのたびに別の表情を見せること。
中島美静さんの近年の作品には、そんな揺らぎがあります。
今回の展示では、棚の前で一度見て終わりにせず、少し場所を変えながら見てみてください。さっき見たものと同じはずなのに、もう一度目が止まる作品があります。
