戸出雅彦② 変わり続けてきた九谷焼
九谷焼の歴史から、戸出雅彦の色絵を考える
戸出さんについては、これまでもブログでBIOMEなりの視点をお伝えしてきました。今回は個展でもあり、改めて九谷焼についてしっかりと調べたいと考えます。
九谷焼の歴史は、江戸時代前期、17世紀半ばにさかのぼります。
加賀藩の支藩である大聖寺藩の初代藩主・前田利治のもと、現在の石川県加賀市にあたる九谷村で磁器の生産が始まりました。当地で陶石が発見され、肥前有田で学んだ製陶技術を導入したことが、その始まりと伝えられています。少なくとも1655年には九谷焼が存在していたとされますが、正確な開窯年は明らかになっていません。
この時代の作品は、後に「古九谷」と呼ばれるようになります。
古九谷を特徴づけるのは、大胆な構図と濃厚な色彩です。緑・黄・紫・紺青・赤の「九谷五彩」を用いた色絵、器面を塗り埋めるように彩色する青手など、その表現は絵画的で、時には器の実用性よりも絵付けの存在感が前面に出ています。
もっとも、古九谷と呼ばれる伝世品の産地については、有田産とする説と九谷産とする説があり、現在も研究上の議論があります。
古九谷の窯は18世紀初頭までに生産を終えます。その理由は明らかではありません。それから約100年後、九谷焼は再び動き始めます。
1807年、金沢に春日山窯が開かれ、青木木米の指導による制作が行われました。続いて若杉窯、小野窯などが生まれ、1824年には豪商・豊田伝右衛門が古九谷の再興を志して吉田屋窯を築きます。この時代を「再興九谷」と呼びます。
興味深いのは、再興九谷が古九谷の様式をそのまま再現するだけではなかったことです。
吉田屋窯では緑・黄・紫を主体とした青手が発展し、後の宮本屋窯では飯田屋八郎右衛門による緻密な赤絵細描が知られるようになります。さらに永楽和全による金襴手など、それぞれの窯や絵付師が異なる表現を生み出しました。
九谷焼は、すでにこの時代から、複数の画風が共存する陶磁器だったのです。明治に入ると、その性格はさらに変化します。藩による保護が失われる一方、九谷焼は輸出産業として発展しました。1873年のウィーン万国博覧会をはじめ、海外の博覧会にも出品され、赤絵や金彩を駆使した華麗な作品が欧米市場へと送り出されます。
九谷庄三らの仕事は、こうした発展を支えました。また、制作量の増加に伴い、素地づくりと上絵付けの分業も産地の生産体制として定着していきます。
一方で、職人が個人の表現を追求する作家として活動する道も発展しました。20世紀には、北出塔次郎・不二雄、三代徳田八十吉、吉田美統など、それぞれに異なる造形や色彩の表現を確立する作家たちが登場します。
こうして振り返ると、九谷焼の歴史は、ある一つの美しさを守ってきた歴史というより、色絵という技術を受け継ぎながら、時代ごとに異なる表現を生み出してきた歴史ともいえます。では、現在の九谷焼において、何を描き、どのような形にするかは、作家にとってどのような問題なのでしょう。

ここで、戸出雅彦さんの作品に目を向けたいと思います。
戸出さんは金沢美術工芸大学を卒業後、金沢卯辰山工芸工房で長く陶芸専門員を務め、教育や企画運営にも携わりながら制作を続けてきました。
九谷磁器土を用いて成形し、九谷の色絵技法によって加飾する。その制作は、材料と技術の両面で九谷焼の系譜につながっています。
しかし、戸出さんの作品は、特定の伝統画風を再現するものではありません。器の形、文様、色の組合せを基本に、市松模様や赤絵による具象的な図像など、異なる表現を展開しています。
注目したいのは、戸出さんが2013年から使い続けている「色絵飾器」という言葉です。
器としての形を持ちながら、飾ることも、使うこともできる。この呼び名には、器と鑑賞作品をあえて分けない作家の考え方が表れているように思います。
九谷焼の歴史をたどれば、器はもともと絵付けのための重要な場でもありました。古九谷の大胆な構図も、飯田屋の細密な赤絵も、器という立体の上で成立してきたものです。
戸出さんもまた、その歴史の延長にいます。
けれども、戸出さんの作品では、器の形そのものが絵付けの見え方を変えています。文様によって器の曲面が際立ち、逆に器の膨らみやくびれによって、文様が動いて見える。
器が先か、絵が先か。
形と絵付けが互いに作用するところに、戸出作品の造形的な面白さがあるのではないでしょうか。
九谷焼の歴史を知ると、戸出さんの自由な表現も、伝統から離れたものとは見えなくなります。むしろ、何を描き、何を変え、どのように器へ取り込むか。その選択を重ねてきた九谷焼の歴史のなかに、戸出雅彦も位置しています。
長く作品に接してきた私が、なぜ戸出さんの仕事に惹かれるのか。その理由を考えるには、まず九谷焼そのものの歴史を知る必要があったのだと思います。
11月7日から始まる個展では、こうした歴史を背景に、戸出雅彦さんの「色絵飾器」をご覧いただきたいと思います。
出典:
石川県九谷焼美術館「九谷焼とは」:古九谷、再興九谷、明治以降、現代の作家と画風の解説。
石川県九谷陶磁器商工業協同組合連合会:九谷焼の歴史年表、産地の成立と産業史。
石川県九谷焼美術館 Q&A:古九谷の産地をめぐる研究上の議論。


